夏の入り口。

いよいよ本格的に蒸し暑くなってきた。毎年のことながら、夏の入り口は身構える気持ちになる。

会社からの帰り道、ぶ厚い雲の切れ間から燃えるように黄色い空が顔を覗かせる。その黄色がなんとも鮮やかで、まるで世界の終わりが訪れるかのようで、そんな下を僕らはいつもと変わりなくせわしなく家路を急いでいて、なんだかおかしくなってしまった。路上で歌っているシンガーの声がやたらと切なく響く。

電車に乗り込んでからも、自然と目は空に向かう。刻々と形を変えてゆく雲を見ている。雲を見ていると、ごった返す電車のなかはさながらこの世界から脱出する列車のように思えてくる。

次の駅で電車を降りて、階段を走って息急き切って乗り換えを済ませると、いつの間にか空は落ち着いた漆黒の色に変わっていた。電車の窓には己が顔が映し出されるようになる。

効きすぎた冷房のせいで少し熱を帯びた額を、電車の窓に押し付けて、じっと自分の顔の向こうに見える夜景に目を凝らす。