放浪。

台風が近づいてきたことが感じられる空気に包まれた夜、昔住んでいた街で焼肉を食べることになった。発車ベルが鳴るとともに、ホームに残していた片脚を電車のなかに運んで、ドアが閉まるのを待つ。トンネルを走る電車の窓に少し歪んだ自分の顔が映る。

汚くてゴチャゴチャしていたロータリーはすっきりと整備され、タクシーが滑り込む。まだまだ新しいアーケードが雨を除けてくれて、その下を商店街の方へと歩く。商店街には以前と変わらず不動産屋が軒を構えている。この街で住むアパートを契約した不動産屋だ。

アーケードを抜ける。雨は降っているけれども、傘の必要はなく気持ちよく歩けるくらい。お店に入ると僕らの他には誰もいなくて、80年代の曲がずっと有線で流れている。

ひとしきり盛合せを食べた後でホルモンを焼く。柔らかい肉が炎に包まれて収縮していく。昔の話をしながら、ゆっくりと時間が流れていく。気にやんでいたこともいつしか炎と一緒に溶けていって、心が軽くなっていく。

店を出てふらふらと歩く。いつも、ふらふらと歩いてきた。どこに向かっているのかわからないように見えても、確かに進んでいた。