出張や夜の会合のある日を除いて、毎日夜8時を過ぎて夕食と入浴がひと段落すると、妻は「じゃあの、あとはよろしく」と告げて寝室の扉を閉める。父と子の2人の時間の始まりだ。妻はウォーキングに出かけるか、そうでなければリビングでDVDをかけ始める。かけるのは、20年前に一世を風靡したあのダンスユニットがエクササイズを手がけるDVDだ。
寝室に残った僕と息子は、まずは絵本を広げる。息子は同じ本を繰り返し読んでもらうのが好きなようで、最後のページを読み上げるとほどなく、「もいっかい!」の声が飛ぶ。ひとしきり絵本を読む時間が終わると、部屋の明かりを落として、ベッドに横になる。次は歌を唄う時間だ。このごろは息子の好きな「はたらくくるま」ばかり唄っている。ここ1カ月くらいで、驚くほどたくさんの種類の車の名称を言葉にできるようになった。ここでも「もいっかい!」の声が飛ぶ。
ひとしきり歌を唄うと、「最後の1回にしようね」と告げて終わりにする。歌が終わると、息子はまだ唄いたいと駄々をこねたがるのだが、すぐに眠気が上回るのか、目をこすりはじめる。
本格的な眠りに入る前に、息子は必ず僕のパジャマに両脚を突っ込みたがる。そうしなければ落ち着いて眠りにつけないようだ。おかげでパジャマは、完全にゴムが伸びきっている。息子は僕に密着し、両脚をパジャマに突っ込んだまま、やがて深い寝息が聞こえてくる。
しばしば僕もまたそのまま眠りについてしまう。やり残したことがある日などは、翌朝目が覚めて、しまった!と叫ぶ日もあるが、早い時間から眠りについたことによる心身の爽快さには代え難い価値がある。
そしてもう一つ得られる代え難い価値は、息子の寝顔をゆっくりと独り占めできることだ。あと何年今のようにくっついて寝られるだろうか。