アジアンキッチン。

昔よく映画を見に行った新宿の武蔵野館に足を踏み入れたら、アジアンキッチンの看板が目に入った。もう5年くらい行っていないと思う。

大学生の頃からちょくちょく東南アジアに行っていた。食べものが一番の楽しみだった。日本に帰ってきて東南アジアの料理が食べたい、となると、専門店ののれんをくぐる勇気のなかった僕が安心して入れるのはアジアンキッチンくらいだった。モンスーンカフェはちょっと背のびしなければ入れない店だった。

微妙なアジアンテイストを放つ内装、揃えられた各国のビール、多少パンチは抑えられているものの充分に東南アジアの空気を感じられるフード。東京で、大阪でよく通った。働きはじめて東京に戻ってきてからも、映画の帰りにひとりでふらっと入った。アジアンキッチンでかの地域の空気に浸ることは、今から思えばなんともかわいい現実逃避だった。

アジアンキッチンも閉店が相次ぎ、営業を続けているのは新宿武蔵野館のみだと言う。ティーヌンバリラックス、マンゴーツリー、どれもそれなりに通った、好きな店だけど、アジアンキッチンは、なんとなく現状へのなじめなさを感じて生きていた時期によく通った店だけあって、他にはない独特な感情が甦ってくる。