王座戦。
昨年の王座戦のことである。挑戦者中村太地七段に1勝2敗と追い込まれた羽生三冠(当時)は、そこから完ぺきな指し回しを見せ残りの2局を連勝し、王座の位を防衛した。羽生はこのシリーズを通じて、久しぶりに全力を投じて迎え撃つことのできるツワモノを前にして、将棋を心から楽しんでいるように見えた。それほどまでに、名局揃いのシリーズであった。
そして今年の王座戦、名人の位を奪取して四冠となった羽生はまたも若手の挑戦を受けることになる。いま最も若手のなかで実力があると言われる豊島七段が、今年の挑戦者として名乗りを挙げた。
第1局、第2局は接戦となった。両局とも最終盤になって豊島に誤算があった模様で、それぞれ羽生の勝ちとなった。内容だけを見れば両者の力は拮抗しているようだったが、勝負自体はこのまま羽生が押し切って防衛してしまうのではないかと僕は思っていた。
しかし、第3局、第4局と今度は豊島が完ぺきな将棋を指した。いずれも、羽生が明確なミスを犯したということもなく、豊島が中盤思い切りよく指して築いたリードを終盤まで保ち、そのままゴールに飛び込んだような将棋だった。逆王手をかけられたのは羽生、昨年とも対照的な展開である。
最終局、豊島は初のタイトルに手が届くだろうか。そして羽生は、現20代からタイトルを奪われるという初めての経験を喫するのだろうか。