竜王。

8月の終わり、BSフジで『その男、名人につき』という森内俊之竜王の特集番組を見た。今期の名人戦七番勝負をメインに、森内俊之という棋士にスポットを当てた内容だ。名人戦自体は羽生挑戦者の4連勝に終わり、森内竜王にとっては苦渋の内容であり、名人戦前からこの番組を作ることを決めていたであろう制作サイドにとっても誤算であっただろうが、それでも森内竜王という棋士の魅力を巧くまとめた内容に仕上がっていた。

将棋界に名棋士はたくさんいようとも、羽生善治四冠のライバルと言えばやはり森内竜王以外に浮かぶ者はいない。わずか2週間の違いでこの世に産まれた2人が、少年の頃から30年以上闘い続けることになるのは偶然か。

羽生マジックとも呼ばれる羽生四冠のひらめきの指し手に対して、森内竜王は時間を掛け研究を重ねて対抗していくスタイルだ。その積み重ねで羽生四冠に対抗する地位にまで登りつめた足跡が、森内俊之という人間の魅力に反映されているのだろう。

ここのところの将棋界では、20代の若手に勢いがある。豊島七段が王座戦で羽生四冠に挑戦、糸谷六段が羽生四冠との挑戦者決定戦に勝ち、森内竜王への挑戦を決めた。昨年一昨年と王座戦で羽生四冠に挑戦した中村七段も相変わらず好調だ。円熟を迎えた羽生と森内が彼ら若手と交わってどんな化学反応を起こすか、この秋の竜王戦が楽しみである。