ネレナニズム。

零時30分、出張先のホテルでそろそろ寝ようかとベッドに潜り込む。熱い浴槽に浸かったので身体がほてっている。冬ならば窓から冷気が忍び寄って丁度いい頃合いになるのだが、季節は既に春になっている。身体に残った熱はなかなか取れず、まとわりつくシーツとの間で汗をかくようになる。シーツを取っ払って放熱すればさすがに寒さを覚え、シーツをかぶれば汗が気になる。そんな繰り返しのうちにふと時計を見ると1時40分を過ぎている。

寝入りに珈琲を飲んだわけでもないのに眠気がやってこない。いつもならば日付が変わる前に眠くて仕方がなくなるのに珍しい。眠くならないのでiPhoneを取り出して経済関係のコラムを読む。読んでいるうちに眠くなるだろうと思って読み始めたが、眠くなるどころか空腹を覚えてきた。腹が減っては眠れない。朝ごはん用に買っておいたセブンイレブンのおにぎりを取り出して食べる。おにぎりだけではなくカップのみそ汁をも作って啜る。これでようやく眠れるはずだ、明日は8時まで寝ても大丈夫だから6時間弱は寝られるはずだ、と人心地着いて再び床に入る、が眠れない。

もう3時近くになっている。こうなってくると眠れない理由は、なにかの予兆かと思えてくる。ふと気になっていた南海トラフ地震のことを思い出す。この胸騒ぎは地震が来る前ぶれではないのか、と考え出すとそのことで頭がいっぱいになり、今地震が起こったらどうしたらいいか、と考え始める。なにも身につけていなかった上半身にシャツを着て、避難ルートをシミュレートしながら横になる。

やがて浅い眠りに入る。眠りに落ちるか落ちないかの瞬間から夢が始まる。地面が震え、自分の立っている部分が隆起してくる。そして周りを津波のような激流が流れはじめる。いつしかドラえもんの映画のような冒険のストーリーになっている。僕は慌てふためきながら、水の流れが収まるのを願っている。そこで目が覚めると、時計は4時45分を示している。窓の外が明るい。春分の日を過ぎたとはいえ、こんなに早く明るくなるものか、なにかの間違いではないかと動揺する。

もう一度眠りに落ちる。次の夢のなかではヨガをしている。どんどん汗が出て身体が軽くなり、力が満ちてくる。夢うつつの状態で何度か目が覚めるが、早くヨガの続きを味わいたくて眠りに落ちようと心がける。そんな風に覚醒と昏睡を何度か繰り返し、ふと目が覚めると6時40分になっていた。寝た、とは言い難いのだが、さほど眠いわけでもなく、疲れも特にない。なんとも不思議な一夜だった。