一番長い日。

先週金曜日はいわゆる「将棋界の一番長い日」と呼ばれる、A級順位戦最終局一斉対局であった。既に順位1位を確保し、森内二冠への名人戦七番勝負への挑戦権を手にした羽生三冠から、32年在籍したA級からの降級が決まってしまった谷川九段まで、将棋界の最高峰に位置するA級棋士10人が集い、激しい戦いを繰り広げた。例年この日はテレビカメラが入り、ケーブルテレビやニコニコ生放送での生中継、後日NHKでも特集番組が放送され、普段毎週放送されているNHK杯将棋トーナメントとは異質の緊張感漂う対局に臨む棋士の様子をファンが見ることのできる貴重な機会となる。今回も、谷川九段が32年間指し続けたA級の舞台の有終の美を飾る勝利を手にした対局の模様や、もう1人の降級者をめぐる崖っぷちの棋士たちの戦いを見ることができた。特に勝った方が残留、負けた方が降級に限りなく近づく一戦となった、三浦八段と久保九段の対局は、手数なんと271手、両者持ち時間を使い切り60秒以内に指さなければならない状態が延々と続き、終局が午前2時にもつれこむ大熱戦となった。最後に久保九段が投了を告げたあと、10分以上両者ともに声が出ず、放心状態のまま無言で盤を挟んで向かい合う姿には、心打たれるものがあった。結果的には他の棋士が先に敗れたため、両者ともに勝敗の如何に関わらず残留が決まっていたのだが、そのようなことを知らず、負ければ降級と信じ込んだまま戦い続ける、これぞ順位戦がもたらすドラマなのである。

★★★

そして翌土曜日は、奨励会三段リーグ戦の最終日である。これもまた「将棋界への一番長い日」と言うべきであろう。三段リーグのことはこれまでも何度も書いてきているが、半年前の前回の三段リーグ最終日にて、負けた方が退会という勝負を制した宮本三段が、ついに四段昇段を決めた。28歳での昇段は現行制度になってからは最年長、18期9年もの間三段リーグで戦い続けた苦労人に、晴れてプロ棋士となる日が訪れたのである。幾度とあと一勝でプロ棋士というチャンスを逃し、前回は最後に3連勝しなければ退会という危機を凌ぎ切った彼が、最後の最後に栄光を掴み取った。

もう一つの昇段枠に滑り込んだのもこれまた苦労人の星野三段。3年前に新手、新戦法に表彰される升田幸三賞を受賞した頃から折り紙付きの実力者であった彼も、三段リーグでは勝ちきれず苦しみ、14期7年、25歳での昇段となった。星野三段が賞を獲得した超速3七銀戦法は、奇しくも前日の順位戦で三浦八段が採用した戦法である。トッププロもが採用する戦法を編み出した彼にも、ようやく勝利の女神が微笑んだのだ。

今回の2人ほど、エピソードに溢れ、周りの方の想いも詰まった昇段者はいただろうか。プロ棋士への仲間入りを果たした2人の、これからの活躍も引き続き見届けていきたい。