谷川浩司十七世永世名人。

少し遅くなったが、このことを書いておかないわけにはいかない。谷川浩司十七世永世名人のA級からの陥落が決まった。

14歳中学2年でプロ棋士となり、19歳で将棋界のトップ10人が属するA級への昇級を果たした。そこから32年間、A級棋士としての地位を守り続けた。19歳で初参加したA級順位戦でいきなりトップの成績を残し、時の加藤一二三名人に挑戦して見事20歳、史上最年少での名人位を獲得した天才棋士は51歳になった。

現在、50歳台の棋士でトップレベルの実力を保持していると言っていいのは彼以外にはいないと言ってもよい。30代以降の彼の戦いは、羽生善治をはじめとする羽生世代の棋士との戦いだと言える。次々に押し寄せてくる新しい世代の躍進を受け止めることにより、彼の将棋もまたさらに磨かれていったのだろう。

しかしながら、そんな天才棋士もここ数年のA級順位戦では苦しい戦いを強いられていた。昨年の順位戦にしても、最後の最後まで降級がけっぷちの戦いとなり、競争相手が敗れたことによって首の皮一枚で残留となった。自身の対局の感想戦が終わり、詰めかけた新聞記者によって自身がA級に残留したことを知らされると、なんとも言えない苦笑いを漏らした姿は今も脳裏に焼きついている。そして、そこで「B級1組でも(引退はせず)指すつもりでした」という言葉を残したことも。

かつてトップレベルで長年活躍した棋士も、40歳台になると多少の差はあれ衰えが見えはじめるようになる。近年になってその傾向はさらに強まり、一気に成績が下降線をたどる棋士も少なくない。そんななかで、将棋連盟の会長職としての重責をこなしながらここまでA級の地位を保ち続けた谷川九段の偉業は言うまでもなく凄いものである。これからも棋士として指し続ける姿を見たい、一方で会長としての任期がまだまだ残っているなか今の状態を続けることはあまりにもハードすぎる、という思いもある。今季の順位戦が終わった後にフリークラス転出や、引退を表明することがあったとしても致し方ないという覚悟もできている。

降級が決まっているとはいえ、今季のA級順位戦はあと2局が残されている。いずれも対戦相手にとっては重要な一戦であり、何より谷川九段自身にとって、32年間戦い続けた最高峰のリーグ戦、積み重ねた2百数十局の最後を飾る対局となる。最後まで全力を出し尽くして戦う彼の姿を見たい。そして、下のクラスで好成績を残してA級に復帰する日がくることを願いたい。