名人戦の終わり、順位戦の始まり。

5月31日、第5局に勝った森内名人が、4勝1敗で名人位を防衛。羽生三冠三たびの挑戦も及ばず。

名人戦で指される将棋は、他の棋戦で指される将棋とは質感が全く違うように思う。一直線の攻め合いになることはまずなく、緩急を付け合った、腰の重い勝負になることが多い。終盤で逆転するようなこともあまりなく、序盤から中盤にかけていかにわずかなリードを奪うか、そしてそのわずかなリードを突破口にして勝負に決着を付けるところまで持ち込むか、そんなところに焦点が注がれている。それは、持ち時間が最長の9時間ということだけでなく、ここ数年名人の座を守り抜いている森内名人の指している将棋の内容に依るところも少なくない。他の棋戦ではなかなか名人に相応しい結果を残せていない彼が、名人戦になると人が変わったように充実した指し回しで羽生挑戦者を退ける。そんな場面を今年も含めて3年連続で見せられてきた。

今年の名人戦は、2日間かかる対局のなかで、振り返ってみると1日目で既に形勢に差がついている(あくまでも振り返ってそう結論付けられるだけで、実際に1日目が終わった時点で傍目には優劣は分からない)戦いが多かった。早い段階でこれまでに前列のない新しい作戦が採用され、その作戦が戦果を挙げていた。言い換えると、事前研究で勝ったということだ。最終盤まで優劣不明で、ねじり合いの勝負は見られなかったが、第一人者である両雄が、序盤から中盤の戦い方に新たな問題提起を投げ掛けたという点で、価値のある戦いだった。

★★★

6月6日、順位戦が開幕。最上位のA級では名人位への挑戦をかけて、その他のクラスでは、上のクラスへの昇級をかけて、来年3月まで長丁場の戦いが始まる。

真っ先にスタートしたのは、B級1組。トップクラスと呼んで差し支えない実力者達の戦いで幕を開けた。なかでも注目されたのが、前年度B級2組からの昇級者対決である藤井九段ー豊島七段のカード。A級からの連続降級で地獄を見た後に一期で這い上がってきた実力の藤井と、連続昇級で勢いに乗る22歳の豊島。豊島は今期も昇級となれば、羽生、森内以来となる20代前半でのA級棋士誕生となる。対局は、豊島が藤井の猛攻を受け切り1勝目を挙げた。

電王戦に出場した棋士たちの戦いぶりも見ものだ。それぞれが口を揃えて、コンピュータとの戦いがプラスになったと言っている。コンピュータとの真剣勝負を経て、人間が成長していく姿にこれからも注目していきたい。