『むつみ荘101号室』。

というネット上に公開されたマンガを、春の頃一気読みした。そしてほどなく、そのマンガは完結した。足掛け6年ほど続いた作品だ。

★★★

この作品は、ハルオという主人公が、大学を中退して23歳で上京してから、周りの人たちとの関わりを通して成長し、自立していくストーリーである。

初期のハルオはネガティブハートの持ち主だ。大学時代は引きこもりを続けていたようで、その時の暗さを引きずっている。やがて、ネットを発端に少しずつ人間関係が生まれてくるが、人間関係の輪に入っていく過程で、ものすごく緊張したり意気込んだりしているハルオの姿が、いつかの人見知りな自分と重なりあってなんとも切ない。人間関係が深まってくるとともに、ハルオに自信が備わってくる姿を見ると、自分のことのように嬉しくなる。

やがてハルオはとある会社にアルバイトとして入り込み、ここでも徐々に仕事のペースを掴むようになる。新しい組織に飛び込む時の不安と、なじんでいく様がここでも描かれている。ここではハルオのみならず、会社に出入りする取引先の人や入ってくる人、出ていく人たちのストーリーも加わる。ハルオだけでなく、みなそれぞれに悩み、進んだり止まったりしている姿に、自分の勤め先を重ね合わせてまたしんみりとする。

その後、目の前の仕事を続けながらも本当に自分のやりたいことは何なのかと悩むハルオに、フリーとしての仕事が舞い込んでくる。会社で取り組む仕事とはまた別の難しさに苦しみながらも、充実感を噛みしめるハルオには、以前の暗い面影はもうない。そして会社を辞めて自分の腕で生きていくという決断をしたところで、ストーリーにひとつの区切りがついている。

東京というどでかい場所で、ハルオが少しずつ自分の場所を獲得していく姿には、誰しも共感できる部分があるのではないだろうか。別に東京に出る、という行為でなくとも、新しい世界で自立していく、という過程をここまで丁寧に描き出した作品はあまりなかったように思う。

できなかったことができるようになる、成長を実感する瞬間というものは捉えにくい。ハルオも、知らず知らずのうちに成長している。成長するってそういうものなんだと、子どもは親から見えないところで成長していくものだと、改めて思う。恐る恐るでも、逃げずに一歩ずつ踏み出していけば、案外ぐんぐんと成長していけるものなんだと思う。そして、人が成長していく過程は、どんなものであっても嬉しくて他の人の力になるものだ。そんなことをこの作品は教えてくれる。