外食に求めること。

海南鶏飯食堂に食べに行く。開店直後にもかかわらず、店内の席はほぼ埋まっていた。ここ1年くらいで日常的にもシンガポールの単語を耳にする機会が増えているし、これからは気軽に立ち寄っても入れなくなるかもしれない。

麻布店が開店10周年になった。そのうち何年かの時間を通っているけれど、ずっと何も変わらない。味も変わらない。挨拶代わりの複雑な風味のスープ、生臭さのない鶏肉、山盛りのパクチー、一滴残さずすすってしまう野菜炒めのナンプラーソースとブラックペッパーソース。

味だけではなく、サービスも変わらない。ランチョンマット代わりに敷かれる紙のチキンライスシート、本当にこまめにソースとお冷、ジャスミンライスのお代わりにまわってきてくれるところ、そしてお会計を済ませて店を出る時に、どんなに混雑していても必ず外まで送り出してくれるところ。

東京中のチキンライスを出すお店に行ってみたけれど、やっぱりここに通ってしまう。ソースが麻薬のようになっている。いろんな思い出と紐付いているし、これからも節目を越えて何度となく食べにくることになるのだろう。シンガポールの味と、日本風の心のこもったおもてなしが合わさった本当に素敵な店。

何十回と食べに行っているにもかかわらず、一度も嫌な気持ちになったことがない。店員さんが作り出す雰囲気に、客のほうも包みこまれているのかもしれない。それはお店の意図というよりは、店長がお店に込める想いが形になったものなのだと思う。最初はチキンライス自体が好きで通っていたのが、いつからか海南鶏飯食堂が醸し出すサービスに触れたくて通うようになった。手厚いサービスというわけではないのだけど、とにかく気持ち良くなるのだ。

★★★

逆に、何度か通ってはみたもののどうしても店員の対応が好きになれなくて、足が遠のいてしまったお店もいくつかある。それは単に巡り合わせが悪かっただけなのかもしれない。外でごはんを食べるという行為は、単に美味しいものを食べに行く、というよりはむしろ、お店の雰囲気や店員さんのふるまいを味わいにいく側面が強いんじゃないかと最近とみに思うようになってきて、外食する時はそんな欲求を満たせるようなお店を選ぶか、チェーン店に行くようになった。チェーン店は店員のふるまいがマニュアルなどで縛られていて、サービスレベルが安定しているので、裏切られるような思いをすることはないし、そもそもの期待値が低いので、マニュアルからはみ出たサービスがあるとプラスに捉えられるというメリットがある。

そんなお店をあといくつか見つけられることができれば、いい人生だったと言ってもいいのかもしれない。