電王戦と、佐藤慎一という男。

将棋界では今週土曜日から電王戦という棋戦が始まっている。電という字のごとくコンピュータと人間が将棋の対局を、5週間にわたって毎週土曜日に行うという棋戦である。出場するコンピュータは、昨年の世界コンピュータ将棋選手権で上位5位に入った精鋭。対して将棋棋士の側は若手の注目株からトップ棋士までバラエティに富んでいる。先週の開幕戦は、弱冠18歳の阿部光瑠四段がコンピュータ将棋の弱点を突いた見事な指し回しで習甦(しゅうそ)に完勝した。

そして今週末に行われる第2戦には佐藤慎一四段が登場する。僕と同じ1982年生まれの30歳、4年前に年齢制限ぎりぎりで四段昇段、プロ棋士の仲間入りを果たした遅咲きの棋士である。けして弱いというわけではないのだが、未だ目立った成績もあげておらず、同い年の橋本八段、阿久津七段(それぞれ佐藤四段との親交が深いことでも知られている)や二つ下の渡辺三冠などの同世代トップ棋士と比べれば実力の開きは否めない。正直に言えば今回登場する5人の棋士のなかでも負ける可能性が一番高いのではないかと予想している人も多い。彼も自身のブログで一度は、なぜ自分が電王戦の出場者として選ばれたのか、という言葉を残している。対戦相手となるponanzaは、昨年こそ選手権4位に沈んだが、ここ数年コンピュータ将棋界では相当の結果を残している強豪だ。

しかしながら、僕は佐藤四段はけして当て馬のような位置付けで選ばれたわけではなく、必ずや見る者に感動を与え、それだけでなくこれからどれだけコンピュータが強くなったとしても、人間が指す将棋に意味が残されている、そんなことを見ている者に感じさせるような将棋を指してくれると信じている。そんな未来を予想して、亡くなった米長前会長は佐藤四段を出場者として推したのだと思っている。

実力で言えば佐藤四段はトップレベルとは差があることは否定できないし、ぎりぎりで棋士という座を掴んだ冴えない男である。本人には失礼になるが、ブログを読んでいるとその冴えなさっぷりがよく伝わってくる。しかし冴えないなかでも努力を重ねて這い上がってきた男の、なんとも人間臭い将棋が、コンピュータとぶつかって輝く姿がたまらなく見たい。電王戦五番勝負、個人的には第二戦を一番楽しみにしている。
■佐藤慎一ブログ「サトシンの将棋と私生活50−50日記」
http://satosin667.blog77.fc2.com/
■第二戦PV