隠されてきた個性の発掘。

これまた先週、『怒り新党』という深夜のバラエティ番組で「新・3大 豊川孝弘七段の口滑らかすぎる解説」という特集が放送された。豊川七段と言えばオヤジギャグを連発することで業界内では有名であったが、果たして彼が全国ネットのバラエティ番組でどう扱われるか、ということで楽しみにしていたのだが、予想をはるかに上回る面白い内容で声を上げて笑ってしまった。改めてVTRの字幕付きで彼の言動を追うことで、今まで自分で見ていても全く気付かないレベルで、彼が質量ともにギャグを散りばめていることに初めて気付きびっくりした。司会の有吉弘行とマツコデラックスも彼のことを褒めちぎっていて、なんとも良い形で将棋が採り上げられたように思う。これでまた1人将棋界からタレントが世に出たと言ってもいいのではないか。

彼に先んじて、加藤一二三九段や桐谷広人七段がバラエティ番組でよく見かけられるようになった。将棋を全く知らない人でもこの2人のことは知っている、という人は多いのではないだろうか。なんとも特異なキャラクターで人にインパクトを与えるという意味では彼らはもはや一種のタレントと言ってもいい。

将棋という世界で特異な才能を発揮するプロ棋士には、元来個性の強い人物が多い。一昔前までは、その個性をむやみに一般社会にひけらかすようなことはするべきではないという風潮もあり、タイトルを獲得するなど強い棋士のみが世間で有名になる状況であったが、米長邦雄氏が会長に就任し、ニコニコ動画とのタイアップがなされてプロ棋士全体の世間への露出度が上がった頃から、それぞれの棋士の個性がファンにより認知されるようになり、その波が将棋ファン以外にも波及しつつある、といった状況になりつつあるのだと思う。単に強い、ということだけではなく、多面的に棋士の魅力が発信され、それが受け入れられるようになっている。

それに伴って、将棋ファン自体もここにきて増えつつある。それに将棋自体の内容というよりは棋士の人となりに魅力を覚えてファンになる人が増えている。先日終了した第3回電王戦では去年に引き続きプロ棋士がコンピュータに苦杯を喫する場面が続いたが、その一方でこうした戦いに逃げずに挑んだことで、コンピュータの力を借りて将棋の世界がより深まったし、よりプロ棋士の魅力を高めてくれたように思う。プロ棋士の持つ様々な個性が広く認知されることで、将棋を好きになる人がもっと増えてくるのだと思う。