成人式、甘酸っぱい思い出。

朝方から雨が湿った雪に変わって、どんどん積もりはじめる。電車で成人式に向かう若者の集団に出くわす。友人と連れだって大きな笑い声をあげたりしている男たち、母親同伴で静かに歩く男の子。舞う雪のなか大変そうな晴れ着の女性。小学校や中学校の教室の様子をそのまま持ち込んだような、雑然とした雰囲気が車内に充満する。

僕が成人式に出たのはちょうど10年前の話で、年末年始の休みが終わっても大学に戻らずそのまま地元の成人式に出た。少し時間があったので、三が日が終わると韓国に飛んで、ソウルのモーテルで知り合ったおじさんと毎晩サムゲタンを食べに行ったり、板門店から向こう側の国を見にいったりして、成人式までの空白の一週間を埋めた。

地元の中学校に進学しなかったので、僕にとって成人式で小学校の同級生と会うのはほぼ8年ぶりのことだった。仲の良い友達とはその8年の間にも年に数回は遊んだりしていたが、普段会わないような同級生とは本当に久しぶりの再会で、楽しみであるとともにかなり緊張していた。

緊張していたのは、初恋の人とも8年ぶりに逢うことになっていたからだ。彼女とは小学5年生から始めた地元の進学塾のクラスで、唯一同じ小学校から一緒に通っている間柄だった。なぜその子のことを好きになったのか、きっかけは昔から全く覚えていないのだが、気付けば猛烈に好きになっていた。毎晩寝る前に目を閉じて彼女のことを考えていた。(気持ち悪くてすみません)そのうちに理由はわからないが彼女は塾をやめてしまうのだが、その後塾の授業中に講師から「○○さんのこと好きじゃなかったの?」と(たぶん冗談で聞いたのだと思う)聞かれた時に間に受けてしまった僕は、こともあろうに授業中の教室のなかで、自分が座っていた机の下に恥ずかしくて潜ってしまったのだ。かくして、塾のクラスメイトはみな僕が彼女のことを好きだということを知っていて、一方で小学校の同級生は僕が本当は誰が好きなのかを知らないという奇妙な状態となった。小学校のなかでは、彼女とは別の女の子のことを僕が好きなんじゃないのか、という噂があったので、これ幸いと僕はその噂を否定せず、しかしながら彼女に本当の気持ちを伝えることもなく、小学校を卒業して僕はみんなとは違う、7駅離れた中学校に通うことになった。

それからの8年間、僕が彼女を見かけたのは中3の時の地元の夏祭り、人ごみのなかですれ違ったほんの一瞬だけだったと思う。もちろんその8年間の間に他の人を好きになったり、他の人とお付き合いをしたりということがあったのだが、それでも初恋の彼女には特別な感情が消えることはなかった。そして、成人式のその場所で、8年ぶりに彼女と出逢った。

その後のことはまたいつか。もしくはどこかのお酒の席で。