TK.

久しぶりに飛行機に乗っての出張へ。僕の担当エリアはたいてい新幹線の便が良い場所なので、飛行機に乗ることは月に一度あるかないか、さらに今回はたまたま2ヶ月以上間が空いた。おかげで飛行機に乗るとなるとこの歳ながら未だにわずかにワクワク感があったりする。このワクワクは失いたくない。

下を向いて本を読むと酔いそうになるのでフライト中はたいてい音楽を聴いている。なかでもANAの7ch、アーティスト縛りのチャンネルを聴くことが多い。今回は華原朋美だった。

★★★

華原朋美が90年代の曲を中心にカヴァーしたアルバムであった。少し聴いただけで彼女が歌っているとわかる独特の発音のままではあるけれど、声のトーンに厚みが増して、それぞれの曲がもともと持っていた性質を壊さないように、丁寧に歌われている。当時を反映するように、小室ファミリーの曲もいくつかある。最終に近い夜の便、窓際の席に収まって彼女の声を聴いていると思うことも少なくない。

カヴァー曲のラインアップのなかに、I BELIEVEとI'm proudの2曲が入っている。小室さんのハモりは入らない。小室さんをバックに怖いもの知らずで声を伸ばしていた当時の歌いかたから、1人にはなったが、ひとつひとつ言葉を噛みしめるように歌い上げる。もう当時のような不安定さがない分、心を揺さぶるような声ではないけれど、過去を消化し、変に自虐に走ることもなく、自分のことをよく知っている大人の女性の声になっていて、これはこれで心に深く沁み入ってくる。

去年、音楽番組で彼女と小室さんと共演したシーンを見た。歌い終わって、小室さんの方を向いて、感謝の言葉を述べる彼女の姿を見た。ここに至るまでにどれだけの時間の蓄積があったのか、想像もつかないけれども想像してみながら彼女の姿を見た。小室さんはなにも言わず彼女の言葉を受け取り、うなづいていた。

デビューしたての頃、彼女は小室さんと付き合っていることを公言していた。その時の「好き」の気持ちになんら偽りがなかったことが今になってよくわかる。だからこそ彼女はその後長く苦しい時間を過ごすことになった。ボロボロになり自殺未遂に及んだ。だとしても、あの当時稀代のプロデューサーに手を引かれて一気に駆け上がった輝かしい道はとても甘美な時間で、「生きる」ことそのもので、狂おしいくらいに彼女は小室さんのことが好きだったのだろう。あれだけの想いをこめて人を愛することがどれほどのものか、僕たちは彼女からその一端を教えてもらっている。