自転車の効用。

体力が落ちると精神力も落ちるのだということに初めて気付かされた。

引っ越してもなお、駅まで片道2キロ半の道のりを自転車で通っていたのだが、以前毎日往復15キロを走っていた頃と比べて明らかに体力が落ちたように思う。起き抜けにいきなり身体を動かしていた頃のほうが疲れにくく、昼間に眠くなることもあまりなかった。身体を動かすことによる疲れよりも、身体と精神に刺激が入ることによるプラス効果の方が大きいのだと思う。まとまった運動から遠ざかっていると、たまにジョギングしてみても長い時間続かなくて、いいや、と途中で止めてしまう。体力というより精神の問題だと思う。

とはいえ、今の家から会社までは片道15キロを超えるのでさすがに毎日往復するわけにはいかない。週に1,2回がいいところだと思う。さすがに普通の自転車を使うのは気が引けるので、ロードバイクを買おうと考えている。

自転車に乗ることの効用として、ペダルを漕いでいる間は考えごとができるということがある。文章を読んだり、人と話をしている時にも考えごとはできるのだが、無意識に身体を動かしていると、ふとあさっての方向から思いもよらなかったアイデアが湧きあがってくる。最近はそういう感覚をとんと忘れていた。

★★★

自宅から中原街道まで出て、そのまま多摩川を渡る。電車から見ていても、多摩川を渡る時の景色にはほれぼれするのだから、どれだけ気持ちいいだろう。その後も細かなアップダウンを繰り返しながら中原街道を進む。スワンボートが浮かぶ洗足池、旗の台ののどかな商店街をちらりと横目に見て、左手に武蔵小山商店街を、右手に戸越銀座の通りを過ぎる。国道1号線と合流して、五反田で山手線をくぐるところを底として、だらだら下ってだらだら登る。登りきったところが白金台で、そろそろ明治学院大学の芝生にイルミネーションが灯りはじめる頃だ。麻布十番のにぎわいを抜けて最後のきつい坂を立ち漕ぎで登る。飯倉の交差点で六本木通りと交差し、東京タワーと正対して、ホテルオークラアメリカ大使館の間を抜けて会社へと下っていく。

わずか一時間の間に自転車はいろんな世界を抜けていく。そんなことを想像していたら、満員電車で前の人や携帯電話の画面を見ながら時をやり過ごしているのが、なんだかもったいなく思えてくる。日常にだって旅を作ることはできるのだと思う。