利は義の和なり。

この時期になるとたまに就職活動の学生さんの相談を受けたりする。といってもうちの会社は弱小投資銀行なので、OB訪問みたいに自社に学生を引っ張るべくしゃべるのではなく、おおまかに金融業界の動向とか、銀行ごとのカラーとか、あとは学生さんからの質問を受けることが多い。自分としても、自社に学生を引っ張ってくるようなミッションもないので、気楽にしゃべりたいことをしゃべっている。

金融業界を志望する学生さんは、誤解を恐れずに言えば、『特にやりたい仕事が見つからない』から金融業界にした、という人が多い。かく言う僕もそうだ。さらに30代以上の社員を見渡してみると、何も考えずに入社してしまったという人がほとんどとなる。他の業界に進んだ人は本当にその分野の仕事がしたくてその業界を選んだのかは、僕にはわからない。

その代わりに、金融業界では、『金を稼ぎたい』という意識の高い人は多い。金のためだけに働いているわけではないが、『稼ぎたい』という自分自身の欲にこだわることができる人は往々にして仕事もできる。この案件が社会に大きなインパクトをもたらすだとか、社会の血液としての金融の使命を果たすだとか、まったく考えないわけでもないけれど、最後はその人自身の『稼ぎたい』という意欲の高さが仕事のエネルギーとなっているんじゃないかと思う。(しかしごくまれに心から社会貢献をしたいと考える、全てを超越した神のような人もいる。)

そんなわけで、学生さんから「どういう時に仕事のやりがいを感じますか」みたいな質問を受けるとちょっと恥ずかしくなる。自分の心のなかにしまっていた信念を取り出してきて打ち明けてみたりもする(そのときの僕の顔は照れ臭い表情になっている)けれど、本心は『収益が出た(お金を稼いだ)時が一番快感やで』と思っている。

この世の中は資本主義社会で、表向きはなんでもお金でものごとが計られてしまう。少なくともビジネスの世界では、お金を基準として意思決定がなされる。当然、誰もがより多くのお金を得たいと考えている。それはあこぎに見える世界かもしれないけど、人間という生物には損得より正しいことを求める心や誠実さや勤勉さがもともと備わっていて、そのうえで、『稼ぎたい』という欲がちょこんと鎮座している、というのが実のところだと思っている。その実のところが少し目立っているだけなのだ。少なくとも僕は、『お金が好き!』と言える人と一緒に働きたいし、そういう人に金融業界で働いてほしいと思う。志望動機を語るときは、いろいろ理屈を言わなければならないとしても。