透明。

ターミナル駅のホームで電車を待っていると、壁沿いに大きな声が聞こえてくる。知的障がいのお兄さんが、ひっきりなしにしゃべっている声だ。ザックを足下に置いて、ボロボロの大きい時刻表を手に取り、しきりにそのページもめくっている。

ホームには2,3分ごとに電車がすべりこんでくる。行き先は3つの方面に分かれており、種別もさまざまなので、一本ごとに両数も扉の数も全く違う電車が入ってくる。彼はそれを大声で的確に案内し、電車がすべりこんでくると、一定のリズムで自分の身体を強く叩く。よく見ていると、電車の速度と叩くリズムを一致させているようだ。

僕も小さい頃は電車が好きだったので、彼のようにふるまいたい気持ちがわからなくもない。おそらくは彼は、子どものときのその気持ちを純粋に持ち続けたまま、もしくはその気持ちをさらに深堀りしつついまに至るのだろう。別に誰に危害を加えているわけでもないし、それは素晴らしいことなんじゃないかと思う。

彼の声を背にして電車に乗り込む。