線香花火。

大きな仕事を終えた。取引は午前中のうちに終わった。やきもきしたこれまでの経緯も、終わってしまえばあっさりしたものだ。辛かった記憶も、半月もすれば忘れてしまうのかもしれない。

そそくさとオフィスに戻り、淡々と事後処理をして、全く違う案件の来客をこなす。ひとつの仕事の終わりは、また新しい仕事のはじまりにつながっていく。ほぼ定時にパソコンを閉じ、机を片付ける。近くの席の同僚に軽く声をかけて、いつものように鞄をたすきに掛けてオフィスを出る。石造りの道に、コツコツと革靴の音が響く。

思えば、仕事の打ち上げというものをほとんどやったことがない。終わったことを労いあう、というのが好きではないのかもしれない。ひとりで戦うのが好きなんだと思う。

人ごみをすり抜けて足早にホームに向かう。すべりこんできた電車に飛び乗る。保育園に向かう前に少しだけ駅前のスーパーに立ち寄って、活きのいい刺身とちょっとしたデザートを買っていこうと考えながら、まだ陽の高い空を見上げる。