健忘症。

親バカかもしれないけれども、うちの息子はとても記憶力がいい。数ヶ月前に出かけた先での出来事を不意にしゃべり出したりすることがある。時には親が忘れてしまっていることも、覚えていることもある。

僕自身の記憶は、3歳9ヶ月からはじまっている。それより前のことは、当時の写真を見たりしてもどうしても思い出せないのである。これは幼児健忘症といって、子どもの脳が進化していくうえでは必要なプロセスらしい。発達段階でのなかで古い記憶にアクセスすることができなくなるそうだ。

あと数ヶ月すればうちの息子も同じ月齢になる。いまあれこれとインプットされている記憶も、いつかは取り出せなくなるのだろうか。そしてその記憶は、取り出せなくなってもそのまま彼の脳内に残存して、人間形成の一翼を担うのだろうか。

僕自身の古い記憶がどんなものだったかはもう取り出せない。でも、幸いなことにおそらくはそれがとても温かいものであったであろうことはなんとなく自覚している。そしてそれこそが、大人になってからの人生を支えていることも。