それでも焼き牛丼。

金曜の夜、大井町東京チカラめしに入店した。ひと頃はよく入っていたのだが、久しぶりに食べるように思える。2年前くらいから𠮷野家や松屋すき家の「煮る牛丼」はほとんど食べなくなって、牛丼を食べたいという時にはチカラめしと決めていたのだが、いつしかそのパターンも薄れて、牛丼自体を食べることが少なくなっていた。そもそも、牛丼を食べること自体が久しぶりだったということだ。

閉店間際のこの店を、日本人離れした名前、おそらく東南アジアのどこかだろう、聞きなれないひらがなの羅列が記された名札を付けた店員がひとりで切り盛りしている。客はまばらで、店員は閉店の準備をしながら、僕のオーダーした肉を焼いている。東京チカラめしの主力商品である「焼き牛丼」はその名の通り、鉄の網に肉を並べて専用のグリルで焼き、独特のタレと絡めて提供するのである。味は旨い。肉の質自体は煮る牛丼を提供する各社と比べて決して良いとは思えないが、肉の調理法として煮るより焼く方が断然旨いということを再認識するくらいには旨い。しかしながらそれは残念ながら肉に限った話であり、米はお世辞にも美味しくない。一時期中国産の米を使っており、インディカ米とも違うパサパサさがあってその際はどうしようもなかった。その時期に比べれば若干改善はされているが美味しくない。

さらに言えば、東京チカラめしのサービスレベルは他の牛丼チェーンと比べても相当ひどい。他チェーンと同様チカラめしにおいても外国人スタッフが多いが、他チェーンであれば日本人スタッフがリーダーポジションに立って店を回していることが多いものの、チカラめしの日本人スタッフは愛想もなく、周りが見えていないことが多い。正直外国人スタッフに接客してもらいたいと思うレベルである。さらに、店内のクリンネスレベルもひどく、混雑時に厨房がどんどん汚れていくのがカウンターからもよく見える。さすがにこれは堪え難いので、混雑時間帯に食べに行くことは避けるようにしている。

このあたりの拙さは業績にも顕著に現れており、チカラめしを運営する三光マーケティングフーズの業績は低空飛行を続け、前期はついに大幅な業績下方修正を出した。チカラめしの店舗数も一時は150を超えたが、昨年後半から閉店が相次ぎ、現在の店舗数は100を切っている。

これだけマイナス要因がありながらそれでも僕があえてチカラめしを食べ続けていたのは、やっぱり肉は焼いて食べるのが旨いと思うからだ。煮る牛丼しかなかった従来の牛丼業界に、焼くというスタイルを引っさげて登場した価値は大きい。だからこそ、しっかりと立て直して欲しいと期待しているのだが。

提供された焼き牛丼は旨かった。一週間の終わり、珍しく退社が23時を超えた疲れを補給すべく丼を平らげて、店を出るところで店は閉店時間となった。もう数十分で月が替わるゼームス坂には、ここ数日の暖かさとうってかわって、冷たい風が吹き始めていた。