55から44へ。

プロ野球もキャンプインから1ヶ月が経ち、そろそろオープン戦が本格的にスタートする頃である。この時期の各球団のオーダーには、今年イチ押しの選手を思い切って試したいというメッセージが表れる。ルーキーがいきなり4番に起用されたり、首脳陣が最も成長を期待するピッチャーがオープン戦開幕戦の先発マウンドに送り込まれたり、近い将来にこうなって欲しいという願望がこめられている。このチャンスを見事にものにして、与えられたポジションを自分のものにした選手が、新たなスターとしての輝きを放つのである。

一方で、何度もチャンスを与えられながらも結果を出せず、シーズン開幕を迎える頃には二軍に逆戻り、という選手もいる。チャンスすら与えられずに二軍生活を続けてやがて戦力外通告を受ける選手もいるなかでは、チャンスを与えられるということ自体が既に恵まれているのではあるが、再三チャンスを与えられながらそれに応えることができなかった、というのも辛いものである。そんな切なさも交えながら、オープン戦の時期は過ぎていく。

昨夜、ジャイアンツの大田泰示選手は1番センターで起用された。キャンプを終え東京に戻り、今季東京ドームでの初の試合、実質的なオープン戦開幕戦に、原監督は明確な意思を持って、入団以来芽が出ないでいる彼をオーダーに加えた。

大田泰示は、高校時代から名を馳せていた。名門東海大相模高校にて1年生の頃から主軸に座り、高校通算65本塁打。188センチ95キロの筋骨粒々とした身体は日本人離れしたスケールであり、当時からヤンキースのスタープレーヤーであるジーターになぞられて、和製ジーターと呼ばれていた。ドラフトではホークスとの競合の末、ジャイアンツが獲得。背番号には、松井秀喜以来空き番となっていた55が与えられた。将来のスタープレーヤーとしての大田の姿を想像したのはジャイアンツファンだけにとどまらないだろう。背番号55を与えられるということは、それほどのことなのである。

大田は1年目からチャンスを与えられた。しかしながら大事な場面で結果を出せないことが続く。二軍では相当の成績を残していたが、去年までの5年間で一軍出場は59試合、25安打。背番号はついに55を剥奪され44となった。かつてのドラフト1位は苦しみ続けた。大田を獲得した原監督もまた、歯がゆい思いを持ち続けていた。もう後がない6年目、それでも大田に輝きを放ってほしい、という気持ちのこもった起用だったと思う。

昨夜の結果は2打数無安打。残されたチャンスはもう多くはないだろう。身体能力は申し分なく、ジャストミートした時の打球の弾道は、これぞプロとうなる、お金を払ってでも見たい凄みがある。ジャイアンツファンでなくとも覚醒を期待したい、崖っぷちの大田泰示が、今季どんな結果を出すか、楽しみにしている。