息を呑む。

九州、初めて乗るローカル線の席に身を預けていた。乗客は5人程度。山の中を抜けていく。

ここ1年くらいはずっと忙しかった。人生はずっと登り坂の連続で(いつか下り坂も現れるのだろう)、毎年しんどいなあ(でも楽しいなあ)と思いながら暮らしてはいるのだが、自分の時間もなかなか取れなくなったし、電車に乗っても、パソコンを広げてはスクリーンに没頭していたり、携帯電話でショートメールやLINEのやりとりをしていたり、窓の外を流れる景色をゆっくり見ることもなかった。

たまたま少し、雨雲が切れかかったようにタスクが片付いて、ぼんやりと車窓の外に目をやった。緑がまぶしい。くもり空だったところから、通り雨がざっと降り出した。窓にも水滴がつき始める。そうかと思ったら、雨が落ちている向こうに太陽の光が差し始めた。落ちてくる雨粒が光輝いている。なんと美しいのだろうか、と息を呑んだ。

列車はトンネルを抜けた。林の向こうにこれから向かう平原が見える。このときの光景のことは、きっと年老いるまで忘れないだろうと思う。