てんとう虫。

どこから入ってきたのだろう、特急列車のガラス窓に、てんとう虫が落ちてきた。触覚をしきりに動かして、なにかをついばんでいる。


連休のさなかであるが、この温泉街はしんとしている。ここもまた昭和の頃に人気を博したが、バブルの崩壊とともに勢いを消し、いまでは数軒の旅館がなんとか経営をしている状況だ。通りの両側に建物はあるが、よく見てみると連休のさなかにもかかわらず営業をしていない館が多い。営業している館の前に女将さんがマスクを着けて立っている。


自分ひとりではどうにかできないほどの大波に見舞われたときに、どう振る舞うのが正解なのだろうか、と考える。みっともなくとも、もがき続けるのもひとつの解だろう。絶望的に見えても、いつかはまた波がやってくる時もあり、そんなタイミングをひたすらじっと待つこともあり得るだろう。


人間もてんとう虫も一生は同じようなものだ。なにかを為したことよりも、なにかを為すことに向かって精いっぱい生きたこと自体が価値になる。てんとう虫は、窓枠の溝のなかに消えていった。どこからか穴を見つけてまた外に羽ばたいていることを願う。