滑落①。

先日富士山の山頂付近で動画を撮影していた人が滑落したニュースに接した。もう10年くらい前のことになるのだが、僕も山で滑落したことがあり、その時のことを思い出した。


春先、雪も溶け始めた2000メートル弱の山でのことである。急登で有名なルートでの下山であった。今でも思い出すと背筋が寒くなるのだが、アイゼンの刺さりにくい、ゆるくなった急斜面で足を滑らせると、そのまま50メートルほどずり落ちていっただろうか。


そこまでスピードは出ていなかったので、このままどこまで落ちるだろうか、などと落下中は頭の中で考えていた。体勢を変えたりどこかに引っかかろうとする余裕はなく、とにかくどこかで放り出されたときにしっかりと対応できるように、とだけ考えていた。はたしてふわっと浮き上がり、3メートルくらいでくぼみにちょうどよくはまり込み止まった。捻挫のひとつもなかったのは本当に幸いなことであった。(明日に続く)