たまて箱。

ふと用があって、大阪市内のとある駅に降り立った。母親の実家があった駅である。


駅舎や駅前のロータリーなどは20年近く前に大きく改装されているのだが、いまだに僕にとっては旧駅舎のイメージが強く残っている。駅前から伸びる商店街だけが当時から変わっていない。待ち合わせには少し時間があったので、吸い込まれるように商店街を彷徨ってみた。


35年ほど前までは、母親の実家はこの商店街で青果店を営んでいた。僕がこの世に生まれるくらいのタイミングで廃業してしまったので、その店の記憶はどこかで見た写真がおぼろげに残っているくらいだ。あとは、なにかの機会に入った定食屋や、たびたび買い物をした和菓子屋などは残っている。玉手箱を開けたかのように、30年以上前の記憶が蘇って、懐かしさでいっぱいになる。この商店街をよく歩いたのは、まさに母親の両親がともに存命だった1988年くらいまでのことであり、僕の記憶もそこでほぼ止まっているのだ。


いつまでこの風景が残るだろうか、何度でも、昔の記憶を取り戻しに、ここに立ち寄ってみたい。