原体験。
八重洲のとある大手企業の受付に上がったところ、きっちりとリクルートスーツを着込んだ学生が並んで座っていた。その学生達が、ジャケットも着ず、髪の毛も無造作なスタイルの僕にもなぜか丁寧にお辞儀をしてくる。学生達から僕の姿はどう見えているのだろうか。
就職活動の頃の記憶はもう遥かかなたに飛んでいる。あの頃はあの頃で、それなりにいろんなことを考えていたはずだが、その欠片も消え去ってしまった。そう言えば、あの頃も紙のノートに日記を書いていたが、散逸してしまった。
あれから時間が経って、もちろん知見や知識はそれなりに増えたけれども、人間の根本のところは、たいして変わっていないように思う。僕自身の原体験は17歳から21歳くらいまでの間に形作られたもので、そこから塗り替えられていない。
そこから今までの時間は、どちらかと言うと目の前のことを淡々と積み重ねてきただけのように思う。もちろん原体験が陰に陽にいつも僕のそばにあって、進むべき方向を導いてくれたものではあるのだけれども。
そんななかで、これまでの原体験も大切にしたい気持ちもある一方で、この歳になって、新たな原体験を作ってみたい、と思う気持ちも湧き上がってきた。