Neck tie.

昨夜の天気予報を見て、きょうはコートなしで仕事に出かけた。ずいぶんと肩が軽くなった。

地下鉄で客先に向かう道すがら、ネクタイを締めようとした。普段は極力ネクタイを締めずに過ごしている。クールビズの数ヶ月間は全くもってネクタイを持ち歩かないし、それ以外の季節にしてもアポイントの直前、人気のないところでこっそりとネクタイを締める。

だが、ネクタイが見つからない。いつも一つや二つネクタイを丸めてカバンに突っ込んでいるのだが、それが見当たらない。駅のベンチにカバンを置いて探すが、ないものはない。

なんできょうに限って忘れたんだーなどと後悔してもしょうがない。一瞬、きょうは首を寝違えてネクタイが締められない、というポップな嘘をつくことが頭をよぎったが、きょうは無用なリスクを取るには勇気のいる大事な客だ。ちゃんとネクタイを調達しなければ、と切り替えた。幸いにして客先までは地下鉄で6駅、アポまでは30分ある。時間も朝の10時を過ぎている。ということで、ひとつ手前の駅で降り、開店したばかりの紳士服チェーンに入っていく。驚くべきことに、ネクタイを買うのは8年ぶりだったりする。

お買得コーナーのネクタイを買うと思いの外安い、この際だからちゃんとしたものを買おうと思って入店したが、新渡戸稲造さんがおひとり飛んでいくのに尻込みした。店の前でジャケットを脱いでネクタイを締め、ひと駅先の客先まで小走りで向かう。キツ目のネクタイと湿り気のある暖かな空気が、社会人になりたての記憶を呼び起こす。