北品川。

京急本線は品川駅を過ぎると、JRの線路を乗り越えて踏切を渡り、北品川駅に着く。品川駅よりも南にあるのに「北」とははて、と思うが、もともと「品川」の地名がついていた東海道品川宿はいまの品川駅よりもずっと南にあり、そこから見ると北品川駅は北に位置する、という事情によるものである。

北品川駅を降りると、かつて東海道だった道が残っている。車がやっとすれ違えるくらいの、曲がりくねった道が旧東海道であり、おそらくは戦火をくぐり抜けたのであろう、相当年季の入った建屋が並んでいる。品川のオフィス街の喧騒はなく、いつ来ても人通りは静かで落ち着いた空気が流れている。都心近辺でここまでのんびりした場所はなかなかない。

旧東海道のあたりまで運河が入り込んできて、屋形船や釣り船が停まっている。昼下がりに停泊している船の姿を見ると、こちらまで気が抜けてくる。路地の奥に小さな祠がいくつもあって、ひっそりとお地蔵さんがたたずんでいる。

品川に来て1年以上が過ぎた。無機質なオフィス街、人が詰め込まれている感覚になかなかなじめなかったけれども、その後背にはなんとも柔らかな空気を持った場所が控えていた。