日帰りで何度となくきた街に泊まることになった。お客さんと軽く食事をして、ひっそりと静まりかえった駅のコンコースを横切ってホテルに向かう。
晩秋の北関東はことのほか冷える。足早に駅を通り過ぎようとすると、聞き慣れた唄が聞こえてきた。エレカシの「今宵の月のように」だ。今でもなお好きな曲だし、たぶん人生のシーンで記憶に残る一曲は、と聞かれるとこの曲になるのだと思う。
僕と同じくらいの、中年に差し掛かった男が1人、ギターを抱えて唄を歌っていた。1人の老年の男が身体を揺らしながらその歌声を聞いている。やけに通る声で最後のフレーズまで唄いきった。
今年の紅白にはエレカシが初出場だそうだ。たぶんこの曲を歌うのだろう。僕を含めた少なくない中年男が、1年の終わりにこの曲を聞いて、あの頃のことを思い出すのかもしれない。
「さて、どうするか」と呟いて、人気のない道を歩く。あいにく今夜は雲が出ているようだ。今夜もまた、眠れない夜になるのかもしれない。