風邪。

息子が風邪を引いた。

近所に最近できたクリニックの先生は、満面の笑みで僕らを迎えてくれた。誠実さが全身からにじみ出るような人だ。手慣れていながらも、微塵も乱雑さのない手つきで息子の身体を診て、コメントを出してくれる。

診察を終えて別室に移り、吸入を受ける。僕もまた小さい頃は小児科でよく吸入器を使っていたな、と思い出す。吸入器の発する霧が痛めた僕の喉に向けられ、その残滓が鼻に入ってきて感じるほのかな匂いの記憶が、久方ぶりなのについ昨日のことのように蘇ってくる。キョトンとした顔をして吸入を受ける息子の姿は、あの日の僕に重なって見える。

先生の、慎重に言葉を選んでくれた説明を聞いてクリニックを後にし、家路を急ぐ。すっかりと日は暮れ、真冬のような冷たい風が吹き付ける。胸に抱いた息子の口から小さくうめき声が漏れてくる。一番苦しい思いをしているのはこの子だ。まだ眼もしっかりと見えず、喉に絡んだ痰の出し方もわからず、苦しい思いをしているのだ。

ゆっくりでいいから元気になろう。そんな思いを、何十年前の親も同じように抱いていたのだろうか。どうも、最近昔のことを思い出すことが多い。親になるということは、自分の親の気持ちを追体験することなのか。