巡り。

ひじを突き上げた状態で眠ってしまうことがある。目が覚めると、腕には血が通っていない。腕には感覚がない。重さも感じない。自分の腕でないなにかが身体から突き出している、という感覚だけだ。起き上がることもできないので、もう片方の、水平に横たえていた方の腕を上げて、まるで身体に突き刺さった障害物を取り除くように、動かない腕を持ち上げて水平に横たえる。ほどなく、じわっと腕に血が通いはじめる感覚が甦る。数分もすると、腕を動かすことができるようになる。記憶喪失から復活した脳のように、まるで初めて腕を動かすかのようにひとつひとつ動きを思い出してゆき、いつもの腕が戻ってくる。

どれほどの間血が通わなければ、この腕は復活してしまうことをやめてしまうだろう。もう手遅れになってしまった腕は、身体全体のことを考えると切り落とすしかないのだろうか。ついさっき復活したばかりの腕をさすりながらそんなことを考える。ふいに、僕の前を去っていってしまった人のことを思い出す。

蒲団の外の空気はすっかりと晩秋のそれになりつつある。そろそろ身体を起こして、お湯を沸かさなければならない時間だと気づく。