須永の28球。

少し早い週末に休みを取って妻と母の3人で伊豆へ。お風呂のたくさんある旅館で羽休め。

夕食も終わって、妻は露天風呂に行き、母は早々に床に就いたので1人でのんびりと野球を見る。こんなところにきてまで野球、と思われるかもしれないが、これはこれで贅沢な金曜の夜の過ごし方じゃないかとは思う。

★★★

ジャイアンツとマリーンズのゲームは、じりじりとした中盤の競り合いを抜けて、マリーンズが7回ウラに頭ひとつ抜け出す。そして8回ウラ、クルーズと今江が揃ってレフトスタンドに大飛球を放り込んだところで、試合の大勢は決した。

34歳の誕生日のゲームが2者連続被本塁打という残酷な結果に終わり、呆然とマウンドを降りるジャイアンツの2番手投手久保裕也に代わって登場した高木京介が打者1人を打ち取ると、聞き覚えのある名前がコールされた。

須永英輝、プロ11年目の28歳。ファイターズからジャイアンツに移籍してからは4年目になるサウスポーである。名前を聞いたのも久しぶり、それもそのはず、一軍のマウンドに上がるのは4年ぶり、ジャイアンツに移籍してから初の一軍の舞台になる。ファイターズのユニフォームを着て投げていた20歳前後の頃と比べて、童顔の風貌はさして変わらないが、その顔の端々にはシワとはいかないまでも、積み重ねた年月を物語る雰囲気を身にまとっていた。

まず相対するのはこの試合守備固めで出場していた岡田幸文。いわゆる「守備の人」ではあるが、須永のボールをうまく見切ってフォアボールで出塁。そして8番キャッチャーの江村直也。売り出し中の若手ではあるが、まだまだ高卒4年目。そしてバッティングをあまり期待されないキャッチャーというポジション。しかし江村もファールで粘り、8球目をライト前にうまく運びヒットとする。本来簡単に打ち取るべき2人の打者からアウトを奪えないところから、僕は怖いほどにプロの恐ろしさを感じた。普段なにげなく打ったり抑えたりしている選手のレベルが、どれほど高いものなのかということを。

キャッチャーの阿部慎之助が、腕を思い切って振れと盛んにジェスチャーで示している。3人目の打者角中勝也に対する1球目、140キロのストレートが綺麗にコーナーに決まった。いいボールを投げる力はあるのだ。しかしながら4年ぶりの一軍の舞台に立つプレッシャーはいかばかりだろうか。その後粘られるものの、ショートゴロで2塁封殺、2死1,3塁。やっとのことでアウトを1つ取った。このまま無失点で切り抜ければ結果オーライだ。

4人目の打者の荻野貴司も粘る。須永も精一杯のボールを投げてはいるが、ファールで逃げられ、ついに根負けしたところをうまくレフト前に運ばれタイムリーヒット、2死1,3塁。阿部慎之助がさらに、腕を振れとジェスチャーで繰り返す。5人目の打者鈴木大地の初球に荻野貴司があっさりと盗塁を決めて2死2,3塁、そして鈴木大地の打球がセンター前に落ちると、2者がホームに返ってきた。須永英輝、1/3イニング、28球、3失点。原辰徳監督が出てきて投手の交代を告げる。

★★★

翌24日、須永は一軍登録を抹消された。戻ってくる日は訪れるだろうかはわからないけれども、いいシーンを見せてもらったな、と思った。