制度に溺れる。

国内プロ野球で今オフFA権を行使した選手の動向が固まった。外国人選手の補強に加え、ドラフト指名された選手の契約もまとまり、自由契約戦力外通告となった選手の獲得もひと段落したところで、各チームの次なるシーズンへ向けた陣容がほぼ見えつつある。

今年もFAで多くの選手が動いた。ルール上、FA制度により選手を失ったチームは、国内球団であれば移籍先のチームに対して金銭補償もしくは人的補償を求めることができる。そうなれば、FA権を行使して出ていった選手よりも、人的補償により相手チームから獲得した選手の方が蓋を開けてみれば活躍した、なんていう皮肉極まりない事態も起こりうるのだ。

FA制度の創設以来、有力選手を獲得したチームとしてダントツで名が上がるのはもちろんジャイアンツだ。もともとジャイアンツの意向によって作られた制度と言っても過言ではない。しかしながら、近年はその制度、特に人的補償による弊害を大きく受けているのがジャイアンツである。これまたなんという皮肉なことか。

昨年ジャイアンツはカープから大竹投手をFAにより獲得したが、人的補償により一岡投手という若手の伸び盛りの選手を失った。ジャイアンツではなかなか一軍でのチャンスが得られなかった一岡投手は、カープに移るとまたたくまに大事な場面で起用される役割を得て、カープ躍進の立役者となった。大竹投手もそれなりに活躍したとはいえ、ジャイアンツファンとしては他チームで若手が大成する姿を見るのは面白くない。

さらに今年、スワローズから捕手の相川選手をFAにより獲得したが、これまた人的補償によりこれから2年目を迎えようという若手のホープ奥村選手を失った。これには将来の有望選手を失った、という痛手にとどまらない悪影響が懸念される。ジャイアンツは高校を卒業してわずか1年の選手を手放したのだ。プロを目指す選手やアマチュア球界の指導者の印象は良いはずがない。スワローズはこのようなダメージを与えることも加味して奥村選手を人的補償に指名したのだろう。相川選手、奥村選手が今後どのような成績を残すか、という議論の前に既に、スワローズは作戦勝ちをおさめている。