最先端の世界。

先週の北陸に続いて今週も中国地方に出張。山陰などはおおむね10年ぶりに訪れる。出張が続くとさすがにしんどいが、天気が良いのが救い。

★★★

途中で日本海側から瀬戸内海に抜けることになる。今回はアポイントと列車のタイミングが合わず、鳥取から津山を通って岡山へ抜けることとなった。ご多分にもれず極めて過疎化が進んでいる地域で、そうした地域ならではの光景を道すがらで目にすることになった。

学校帰りの高校生を満載にして鳥取を出たディーゼルカーは、ことことと郊外を走ってゆく。民家の裏庭がそのまま線路につながっているような、のんびりした駅に止まっては学生を下ろしてゆく。そしていく度目かの駅に止まったところで、対岸にホームの残骸を見た。

使われていないホームは雑草と苔に覆われて朽ち果てようとしている。かつて線路が敷かれていたであろう場所にはホームに届かんばかり砂礫が積み重なり、砂礫の端から細くなり縦に割れ目がたくさん入った、枕木であっただろう木材がわずかに線路が敷かれていた面影を残している。輸送手段としての役割を縮小したこの路線は、駅としての行き違い機能を失くすという選択を取ったことがわかる。

山あいの小さな駅で乗り換えとなる。今度はたった1両のディーゼルカー。高校生も乗っているが、その人影は両手で足りるほどだ。その高校生も1つめと2つめの駅でみな降りてしまう。先に下りた学生が次の駅で降りる学生にバイバイと手を振る。高校生たちが降りてしまうと車内には誰もいなくなる。そうしてディーゼルカーは県境越えにかかる。

ディーゼルカーの進むスピードはえらく遅い。確かにカーブもそれなりにあるのだが、とりたてて登りにかかっているわけでもない。減速する場所があまりにも多いので、前を見ていると、線路脇にプレートが立ち、そこには「25 65 雨15」といった3つの数字が上から順に書き込まれている。どうせ誰もいないので、と思い運転手さんに聞いてみると、「保線の手間を省くために、レールが痛まないように減速している」とのこと。先ほどのプレートならば、頻繁に保線が行われていた昔は65キロで通過していたが、今は25キロ、雨天時は15キロで走らなければならない、という意味だ。スピードよりもなんと保線のコストを優先するということである。都会の電車を思えば驚きだが、高校生以外はもはや利用しないローカル線のこと、民間企業として赤字幅をぎりぎりまで少なくしてしのぐという意味では致し方ない部分もあるのだろう。JR北海道の手抜き発覚とは同列に語れない。

そしてこの話は強烈に過疎の進むこの地域では鉄道に限った話でもないのだろう。やせ細っていく需要と制約のなかで、ベストな落としどころを見出す。そんな意味でここは最先端の世界なのだな、と思わされた時間だった。