北陸本線旧線跡の記憶。

福井出張。天気もよくて気持ちいい。緑がどんどん濃くなっていく季節である。

米原から北陸本線に乗り換えて福井に向かう。夕暮れが美しい敦賀湾を左に見るとまもなく北陸トンネルに入り、木の芽峠をくぐり抜ける。全長14キロ近くある長いトンネルが、福井県を嶺南と嶺北の2つの地方に分けている。嶺南は滋賀や京都との結びつきが強く関西弁にほぼ近い。嶺北は金沢との結びつきが強く、北陸独特のイントネーションを聞く。

★★★

小さい頃、お盆に敦賀に帰省した際に、木の芽峠に車で連れていってもらったことがある。1962年に北陸トンネルが開通する前には、北陸本線は4つのスイッチバックで越えるルートで木の芽峠を越えていた。日本でも有数の峠越えルートであり、今ならば特急電車で7〜8分で通り過ぎるところに40分を要したという。当時は大阪金沢間が急行1日1往復で6時間、今はほぼ30分おきに特急が走り2時間半〜3時間しかかからない。

その北陸本線旧線の線路跡が県道207号今庄杉津線になっている。そもそも鉄道が単線であったので、道路幅も狭い。今どきなかなかお目にかかれないレンガ造りのトンネルがいくつかある。トンネルも線路一本分の幅しかないので、対面通行ができない。入り口に信号がついているトンネルもあれば、目視で向こうから車がきていないか確認して突っ切ってくれ、というトンネルもある。トンネルが崩れないかということと、前から車がきて止まらず突っ込んでこないかということのダブルの不安感で子ども心に非常にどきどきしたことを覚えている。トンネルの合間に、綺麗な敦賀湾がちらっと見える。きらきら光る水面の向こうの半島には、敦賀原発も見える。

峠越えルートのなかでひときわ開けているところが北陸自動車道の杉津SAになる。ここから見る敦賀湾も素晴らしい。そのまた昔、ここにあった杉津駅で万歳をして兵隊さんを見送ったという話をおばあちゃんから聞いた。そしてまたトンネル。レンガ造りのトンネルの顔を緑のツタ(?)が覆うように茂っているさま、窓を開けてトンネルのなかを走る時に流れてくるひんやりとした空気は、まるで『千と千尋の神隠し』のワンシーンのようだ。このままどこか異世界につながっているんじゃないかと思わせるような、そんな雰囲気に包まれている。

★★★

あの道を通ったのはもう20年くらい前のことになるだろうか。もう一度あの道を通っても同じようにワクワクするだろうか。そんなことを思いながらすっかり日も暮れた北陸トンネルをまた南下して、米原に戻る。煌々と光る米原駅の新幹線ホームに、ひかり号が滑りこんでくる。