- 作者: 吾妻ひでお
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2013/10/06
- メディア: コミック
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本作では、本人にアル中の症状が出て病院に無理やり連れていかれ、専門の病棟で暮らしていくさまがボリュームたっぷりと描かれている。自分の話、しかも依存症に陥ったところから抜け出すというデリケートな一時期を、極めて客観的にかつ丁寧に描いており、これは彼の才能のたまものと言う他ない。自殺を試みようとするところやそれを家族が止めようともしないところまでもが、あくまで淡々と描かれており、これには感嘆させられた。
病棟においての依存症からの更生プログラムは、「依存から脱するか、死ぬか」と迫るように厳しいものである。いったん酒をやめることができたとしても、その後一滴でもアルコールを口にしてしまえば、再度依存症に陥ることを回避するのは相当難しくなり、そうした誘惑を長期間にわたって断ち切ることができる人は2割程度しかいないという。
依存症に陥る原因は、それぞれが持つ不安によるものである。不安を紛らわすために酒を飲むようになり、酒が抜けるとまたすぐに不安になり落ち着かなくなる。自分自身が持っている不安(それはほとんど漠然としたものなのだろうが)とどうつきあうか、というところが依存症治療の際たるところなのだと思う。
なにかに依存して生きていくことは、表面上では楽なことだと思う。特定のなにかに依存していなくとも、人は少しずつなにかに依存することで心の平静を保つことができる。僕もまた、ブログを書くことや、将棋を指すことに依存しながら生きていることを否定できない。問題になるのは依存するものがたまたまホストや酒やギャンブルであったような場合に限られるわけで、誰がなにに依存するかはほとんど偶然にすぎないのではないかと思う。そして酒はそのなかでも中毒性が高く1度はまったら抜け出しにくい最たるものだったということなのだろう。
この作品はそうした因果も全部包み込んで、否定も肯定もなく、彼の生きてきた時間が納められている。望んだわけでもないのに課せられた自分の運命を呪うこともなく、ルサンチマンもなく、淡々とつづられている。たまに取り出して、静かに読んでみたくなる本だと思う。