8929!!

先月浜松町の「くにもと」に行って以来、あの肉の味が忘れられない。今も思い出しては口のなかに唾を溜めている。せめて1ヶ月に1度は行きたい。

元来僕はケチで味音痴でもあるので、焼肉と言えば牛角安楽亭で完全に満足してしまうタチであった。そもそも肉の味自体がそれほど好きでなかったのかもしれない。肉の味を楽しむというよりは、たれやにんにく、スパイスとのコラボを楽しむという食べ方をしていた。もしくは、ホルモンを好んでいた。

それが、「くにもと」以後に価値観が変わった。この店の肉は普通の焼肉とまるっきり違う。赤身にきめの細かいさしが入った肉は、肉と言うよりは大トロのそれに近い。木箱に収まって運ばれてきた大きめの一切れを、七輪の上に乗せて、火が通っていくさまをじっと見ている。その肉が放つ存在感があまりにもどっしりとしていて、焼いている姿から目が離せない。そして頃合いを見計らって肉を七輪から引き上げ、普段とは違ってほとんどタレを付けずに肉を口のなかに収める。存在感とは裏腹に、あっさりとした気品のある味わいが口のなかに広がる。しばし口のなかで肉を遊ばせてから飲み込んだ後も、ビールを流し込むのがもったいなくて、口のなかに残った余韻を楽しんでいる。

★★★

小さい頃わが家の焼肉と言えば丸いホットプレートで行う鉄板焼きで、しかもなぜかバターを敷いてその上に肉を乗せるものであった。なぜバターを敷いていたのかは今も謎だ。肉にはいつもほのかにバターの香りが漂っていた。焼肉や鍋ものの日に限ってはおにぎりを作ったものだ。肉を口にふくんでは、関西独特の味付け海苔で巻かれたおにぎりを頬張っていた。

20年前というのは意外にも焼き肉店は今ほど多くなかったのではなかろうか。高校生くらいまで、バーベキューを別にすれば外で焼肉を食べたことがないと思う。初めて外で食べたのは高校の卒業式の日に友達と行った時だろうか。大学生活もお金がないので焼肉とはほとんど無縁である。社会人になってからはホルモンに通うようになった。おそらく22歳までホルモンを食べたことがなかったはずだ。いろんな種類のホルモンとともに、仕事の世界によちよち歩きで踏み出していった。

僕自身の焼肉スタイルもいろんな変遷もあるけど、焼き肉店の業態も大きく変わってきているのだと思う。これから先またどういう焼肉に出会えるのか、自分の嗜好もどう変わっていくのだろうか。食べることは生きること、生きる喜び!