養老乃瀧。

この間、久しぶりに居酒屋に行った。ここのところは夜の会食では、焼肉屋かフグ屋ばかり、たまにレストランだったので、新鮮な体験だった。手作り感満載の小鉢をアラカルトでつまみながらビールを流し込むのが良い。そして、飲み食いしながら、どこか幼少の頃にたまに連れていかれた居酒屋のことを思い出していた。

僕が育った下町には、子どもが入れるような居酒屋はほとんどなかった。卸売り市場があったので、そこで働くおっさんたちが昼日中から呑めるような店はいくつかあったが、正直なところ近寄りがたい雰囲気を発していた。

そんななかで何度か家族連れや、町内会などで行ったのは「養老乃瀧」だった。おそらく町内で唯一のチェーンの居酒屋だったはずだ。ただチェーン店といっても、出来合いのものが出されることはなく、(別の)家庭で出された晩ごはんを食べているような気分になる店だった。子どもにとっては、居酒屋というのは不思議な体験だ。

数年前だったか、気づけば養老乃瀧は閉店していた。それでも、あの店があった環状線のガード下をくぐるたび、あの独特の赤い看板が記憶に甦ってくる。