夢のくずと記憶のかけら。

この週末は夏が最後の力を振り絞った感じだ。厳しかった暑さを記憶に焼き付けるように、熱風が吹いていた。ここ数日が涼しかっただけに身体にこたえる。この暑さが収まれば、今年はもう30度超えを経験することはないんじゃないかと思う。

★★★

仕事で大量に書類チェックを行うことが年に何度かある。ローンの契約書を中心に、諸々の書類の内容をひたすら何時間も確認していく。

書類には、契約書と共に申込書も添えられている。そこには、個人ならば家族構成やら、職業と年収やらが、法人ならば業態やら資金使途が記されている。本来確認すべきなのは契約書の内容であって申込書の内容ではないのだが、どうしてもチラチラと目に入ってくる。

はなから踏み倒そうと思ってカネを借りる人はほとんどいないわけで、誰もが目的を持って手に入れたい夢や未来のために借り入れをおこしたはずである。それが、歯車が崩れるかのように返済が上手くいかなくなる。返済が上手くいかなくなるということは高い確率で、手に入れたい夢や未来も壊れていく。単なる山積みの書類には、無数のそんな望まれなかったストーリーが詰まっている。

派手なディールをやれば目立つだろうし、かっこいいだろう。一発ででかく収益をあげれば手間も少なく済むし動き方としては効率がいい。でも、こういう仕事も誰かがやらなければならないし、救われる人だって確かにいるはずだ。ひとつひとつのストーリーに寄り添った分だけ、少しずつではあるけど成果も出る。

綺麗事ではない。結局のところ、自分がコミットした分しか成果は返ってこないのだ。棚ぼたで得られる結果もあるかもしれないが、自分の実力ではなく運で転がりこんだ結果は、巡りめぐって自分の負担になってしまう。

ハングリー精神に欠けた僕は、自分のために頑張るという気持ちが薄いし、目の前の仕事をやり遂げて成り上がりたいという欲がない。だからこそ、誰かのためになっているというモチベーションがなければ頑張ることができない。

★★★

そう、今の自分には欲がない。数年前にはあったような気もするが、いつの間にか霧のように消えてしまった。しっかりと掴んでいなかったから、零れてしまったのだろうか。いくつかあったはずの原体験の記憶も薄れていく。

でもその代わりに、誰かのために頑張ろうという気持ちは増した。いろんな経験を経て残ったのがこれだ。いつか新しい欲が出てくるまでは、この気持ちを支えにしてやっていくしかないと思う。そして、忘れかけていたものを取り戻したり、新しい原体験に出会ったりする日が来るのだとのん気に信じている。