人間と自然。

ピークシーズンは9月末まで続くけれども、とりあえず精神的には先週でひと段落。このいいタイミングで週末はリフレッシュに上高地へ。

★★★

上高地は20年ぶり。小学生の時に夜行バスのツアーで行ったことがあるが、もうほとんど記憶がない。記憶はないのだが、僕も弟も幼い頃からよく山歩きに連れていってもらったおかげか、2人揃って山歩きが好きになった。

土曜の夕方に川崎を出発して、塩尻にある健康ランドにチェックインして仮眠。健康ランドを朝3時前に出発して沢渡(さわんど)に向かう。もういい歳なのでいい加減こういう弾丸ツアーはやめればとも思うが、山歩きの時はまだ1晩くらいであればかろうじて寝なくとも何とかなる。高校の頃に百粁徒歩で身につけた耐性がまだ残っているということだろうか。

上高地にはマイカー規制が敷かれており、沢渡で始発のシャトルバスに乗り換えると、段々空に青みがかかってくる。やがてバスは国道を離れ、急勾配のトンネルを抜けて上高地のエリアに入る。ようやく空が白み始めた5時10分に、上高地の玄関口である大正池に着く。

ごくわずかな雨が降っている。大正池には朝靄か、霧かが立ち込めている。付近には一緒にバスを降りた2人連れの若い男性と自分たち以外に人の気配がない。ただ山と川がそのままにそこにある。人間はそこにいさせてもらっている。

大正池から上高地の中心部である河童橋に向かって歩いていく。道標以外に人の手の入っているものが何もない。朝5時台の上高地は、ほとんど人影もなく、圧倒的な自然が存在しているだけである。草も木も花も石も、雨に濡れてみずみずしい。まるで普段の世界とはその態度が変わったようにすら感じられる。梓川の水は透き通ってエメラルドの光を発し、田代池の水は鉄分を帯びて赤茶けた色を帯びる。

6時を過ぎて、河童橋が近付いてくると、いくつかのホテルがひょっこりと姿を現す。朝の散歩をする人ともちらほらとすれ違うようになり、人の気配が増えてくる。しかしながら、その気配はあくまで控えめだ。

観光地のはずなのに、人の気配が少ない。人の気配が少ないからこそ、自然の姿が生きてくる。これが上高地が他のホテルと一線を画す点だ。上高地の主役は人間ではない。

そう思うと、人間が出過ぎていることで、自然が本来持っている輝きを失わせてしまっているのではないか、と思わさせられる。上高地の自然がそのことを人間たちに教えてくれる。