見慣れた風景。

サーベラスが西武HDにTOBを仕掛けている。久しぶりに見られるファンド対事業会社の戦いである。既報の通りサーベラスは経営破綻に追い込まれた西武グループに2006年に1000億円の資金支援を行い、以来32.4%を出資する筆頭株主の立場である。いずれは西武HDの再上場によってその投資資金の回収を図ることを目論んでいたのだが、ここにきて突然TOBという手法を採ってきた。不採算路線の廃止やライオンズの身売りなどの合理化提案はこの文脈で出されたものである。

報道ではお決まりのハゲタカファンドが無慈悲に公共インフラである鉄道事業やファンの愛着のある球団経営に口を出している、という文脈で報道されている。サーベラスにしても日本のメデァアがこういう論調を流すのは予想していただろうが、それでもなおTOBに踏み切るということは、サーベラスのなかでどのような意思決定が行われたのだろうか。リスクを冒してでも資金の回収を図らなければならない事情があるとしか考えられない。

一方で、経営破綻以降の西武HDの経営からは、創業者である堤一族の関与が徹底的に排除されてきた。現社長の後藤高志は元みずほコーポレート銀行副頭取である。西武HDの事業再生は完全に銀行主導で行われてきた。であれば長年筆頭株主であり、事業再生の道のりであったこれまでの数年間にわたって、リスクを取って株式を保有し続けてきたサーベラスの立場もよく理解しているはずであり、きちんとコミュニケーションを取ってきて然るべきではなかったのか。それがサーベラスにいきなり強硬な態度を取られたと言うのでは、経営陣は筆頭株主としっかり向き合っていたのかという疑問を呈さざるを得ない。TOBに至るまでに事態を収拾できなかったのは逆に西武HDの経営陣の落ち度であり、数年間にわたって株式を安定的に保有し続けたサーベラスは短期売買を狙ったハゲタカでも何でもなく、この不安的な時期に出資をし続けた見返りを要求することは何らおかしいことではないだろう。

サーベラス側と西武HD側双方の背景の事情がいまいち明らかにされていないが、それぞれに探られたくない腹があるのは確かだと思う。それぞれの思い描く戦略はあるだろうし、その戦略のなかでむやみに手の内を明かしたくはないだろうが、ここまでは手の内を明かさないという選択が双方ともに裏目に出ているし、相手の事情を想定して動く、というよりは自分たちがどう動くか、という段階以上の余裕が見られない。メディアもお決まりの論調にとどまっており、何とももったいない話だと思う。