おたく気質。

先日東海道線に乗っていた。4人掛けのボックスシートで、はす向かいには浅黒く日焼けした細身の若者が座っていた。品川で首からカメラをぶら下げた中学生2人組が乗り込み、ボックスの空き座席に座ろうとした。その瞬間、日焼けした若者が座った中学生2人組に声をかけしゃべり始めた。なにを持っていたのが決め手だったのかはわからないが、中学生2人組はいわゆる鉄道おたくだったらしい。かくして鉄道おたく3人のトークがはじまった。日焼けした若者は聞こえてくる話からするとどうやら京浜急行電鉄の車掌で、きょうは非番で首都圏の鉄道を乗りつぶしているようだ。中学生2人は目を輝かせて話に聞き入っていた。鉄道模型フェアの話、好きな車両形式の話、それに車掌君の仕事の裏話が続く。品川−横浜間を126kでぶっ飛ばした話、同期で1番に車掌から運転士に昇格する話、京急の社員寮の話、他の鉄道会社に就職した友人に運転席に入れてもらった話などなど、多岐に渡る話をマシンガンのように矢継ぎ早に繰り出していた。そこまで内部事情をべらべらしゃべっていいのかとも思ったし、そもそも21歳の社会人が初対面の中学生2人を捕まえてどや顔でしゃべり続けるのもどうかと思ったが、横にいて充分楽しませてもらった。

★★★

鉄道会社の本音としてはあまり鉄道おたくは採用したくはないそうだが、それでも鉄道会社の社員に鉄道おたくの人がいる割合はかなり高いはずだ。鉄道おたくが鉄道会社に入社して、本来の仕事と自己のおたくとしての願望を混同してしまっては困るだろうが、安全で正確性の高い日本の鉄道をある面で支えているのが鉄道に対する愛情であることは否定できない。

同じように、クルマの会社をクルマ好きな人たちが支えている一面はあるだろうし、航空会社の社員はみな飛行機が好きなのだと思う。寿司職人やパティシエは、よりよい味を追求することにこだわりがあるだろう。一部で迷走していたりもするが、ものつくりメーカーでも同様の気概を持っているはずだ。

では金融業は金儲けをすることに執心しているかというと、これが意外にも他の業種と同じように経済合理性を超えたところで妙に職人気質だったりする。特に金融取引は規制との闘いであったり、しばしば法的な解釈を伴うこともあるので、法学おたくに近いように思う。あまりにもおたくが過ぎると本質的な議論から外れてしまいがちにもなるのだが。

分野はなんであれ、日本人はおたく気質な人がかなり多い。成果物のクオリティの高さはおたく気質に拠るところが大きい。おたくである、ということがもっと才能のひとつとして評価されても良い、と思う。