人間対コンピュータ。

かなりニュースでもとりあげられていたが、この週末に雷王戦(米長邦雄永世棋聖vsボンクラーズ)第1戦が行われ、ボンクラーズが勝利した。ニコニコ生放送も満員(なおかつ将棋連盟のモバイルサイトの有料会員も大幅に増えたそうで、新たなマネタイズへの道が軌道に乗りつつあると言えよう)、各地で行われたイベント会場もかなり盛り上がっていたし、米長永世棋聖は今回の対戦に向けた準備の過程を一冊の本にまとめるそうで、広く一般の人でも将棋に注目してもらえる機会だったのは良かったと思う。8年以上前に引退したとはいえ、往年の大棋士が精魂込めて対局に臨む姿にも心を打たれた。

一方で将棋の内容自体は、将棋の面白さが広く一般の人に伝わるようなものだったかと言うと首を傾げざるを得ない。米長永世棋聖はかなりの対策を重ねたと言うことであったが、初手から普通の人間同士の対局ではまず指さないような手を指していた(僕もしばしばiPhoneアプリでコンピュータと対局するが、その戦い方と非常に似ている)。

人間同士の対局でも、相手の得意な戦法を封じたり打ち砕くべく事前に研究を重ね、その対策をぶつけるということはよくあるので、コンピュータの特性を研究して最善の手を尽くすという意味では、米長永世棋聖はベストを尽くしたとも言えるのであろうが、個人的にはなんとも歯がゆく感じた。失礼を承知で言えば、人間(プロ棋士)側が真っ向から挑んで敗れることを恐れているようにも見えてしまった。

対局自体は序盤〜中盤までは米長永世棋聖の対策が功を奏し、じわじわとリードを築いていたが、いざ決めに出ようとしたところをボンクラーズに機敏に捉えられ、逆転されてしまったように見えた。人間ならばまだまだ逆転の可能性があり得る場面であったろうが、コンピュータには一度築いた優勢をひっくり返されることなどありえない。その後は一気に終局まで過ぎていった。

人間がコンピュータに勝つには、やはりコンピュータの特性を突いて序盤からじわじわとリードを広げつつ押し切るしかないのか。やがてコンピュータの進化によってそのような勝ち方すら叶わなくなってしまうのだろうか。来年以降、雷王戦の第2戦として現役の棋士がコンピュータに挑むこととなる。真っ向勝負でどんな戦いを繰り広げるのか、今から楽しみでしょうがない。