経営に「正義」なんて必要ない。

ソフトバンクが、自然エネルギーによる発電事業を定款に加える見込みとなっているという。社長の孫正義はこれまでにも「光の道」構想によるNTTのインフラ分離や周波数の割り当てなどの懸案についてCMやWeb上で問題意識を掲げてきた。既存の壁を打ち破る人物として、純粋にソフトバンクユーザーとしても、僕はこれまで孫正義の行動を支持してきた。しかしながら、今回の自然エネルギー構想については疑問を感じずにはいられない。

自然エネルギーによる発電について、今後を見据えて国を挙げて推進していくことは不可欠であろうし、実際に今後コスト逓減が進むことで、自然エネルギーの存在感が増していくことは間違いない。しかし、そこにソフトバンクが参入する意義がいまいち理解できない。ここ数日の彼の発言を見ていると、もはや携帯電話事業に興味がなくなったのではないかとすら思えてしまう。もはや実際のところ、携帯電話事業はキャッシュを稼ぎ出す仕組みであって、彼にとっては魅力のないものなのではないかもしれない。これからの成長が必ず約束される自然エネルギー分野が金の卵に見えているのかもしれない。もしかすると彼は、震災後の数日間で、今後の未来を予測し、その予測シナリオに沿って、ここまで行動(演技?)しているのかもしれない、とすら勘繰ってしまいたくなるほどである。彼が政治家であったら、多数の民衆の心を掴むことができるだろう。選んだ政策が真に国家全体に冨をもたらすかどうかは別としても。

ソフトバンク自体は今年の3月期についても非常に良好な決算を発表し、本業は引き続き絶好調と言っていい。にもかかわらず、株価は5月に入って迷走気味と言ってもいい状態である。これはとりもなおさず、最近の孫正義の言動に投資家が少なくとも良い心証を持ってはいないことの現われではないかと僕は考える。「正義」だなんだの振りかざして、ソフトバンクファンならびにアンチ原発派の民衆の心を掴み、絆を深めたのかもしれないが、まったく市場は正直であるといわざるを得ない。

企業の経営が傾いていくケースとして、本業以外に資金を投じて失敗するという事例はありふれている。ソフトバンクは足元の営業利益こそ華々しい数字をたたき出しているが、ボーダフォン日本法人買収時に調達した資金についてはまだ半分も返済し終えていない。ほんの一ユーザーとして、最近のソフトバンクの舵取りにはいやな虫の予感がする。予感のみで終わってくれることを願う。