熱帯夜。

大阪。市内のなかでも極めてひっそりとした場所に赴く。陽は既に落ちているのだが、てくてくと歩いていると汗が噴き出してくる。

 

どんな場所にも、そこに暮らす人たちの生活の営みがある。そこに最近は、インバウンドの人たちが混じってくる。デラシネのような暮らしを夢見たり、実際にそうやって流れ着いた人たちが行き交う。そこにこっそりとおじゃまさせてもらうような感覚だ。

 

道端にホームレスのおっちゃんが横たわっている。この猛暑では辛かろう。傍らにいくつか並べて置かれていたペットボトルのそばに、もうひとつリュックサックから取り出してそっと置く。

 

夜の帳が下りた居酒屋のカウンターには、大人と並んで子どもたちの姿が見える。厨房まで開けっぴろげになった韓国料理屋では、気だるそうにおばちゃんが鍋を煮込んでいる。数年前に一度潰れたホテルが、看板もそのままにスーツケースの外国人を吸い込んでいく。全ては泡沫のようだ。もう誰もマスクをしていない。昔の風景が戻ってきたようでいて、前とは違う、もう戻れない世界に迷い込んだような気がする。

暑いので、少しだけビールを口にしただけで酔いが回る。