すき家の彼女。

前に働いていた街に、6年ぶりに戻ってきた。食の嗜好はたいして変わってもいないので、ひとりで食事をするときには軒並み最寄りの「すき家」になる。


数年ぶりかに、件のすき家に入店して食事を摂っていると、なにやら聞き覚えのある声が聞こえてくる。あれっと気づいて丼から顔を上げると、見たことのある顔の女性がいる。前に見かけたのはいつか思い出せないが、たしか10年くらい前からこの店で働いているはずだ。


彼女は、お昼の書き入れ時に、ずっと声を張り上げながら次々と押し寄せる客を誘導している。この界隈は安く早くランチを済ませる場所がなく、常に店は人で溢れている。この長い間にわたって、数え切れないくらいの人をさばき続けてきたのだろう。はた目から見てもさすがに職を変えてもいいような気もするが、それをしていないということは彼女自身になんらかの事情やこだわりがあるのかもしれない。彼女もまた、幾千の務め人と一緒に、この街で闘っている存在だ。