魔の時間帯。

9月になると途端に日暮れが早くなったと感じる。もうこの頃は、保育園に迎えに行く時間は暗くなり始めている。

自転車にまたがって帰り道を走り出すと、この季節ならではのいわし雲が見える。その向こうにはもう沈まんとしている太陽の切れ端が見える。心臓をぎゅっと掴まれる光景だ。

子どもを座らせる椅子が前かごから後ろに移ったので、もうたくさんは話せないけれど、空が綺麗だから見てごらんと話す。息子は、父の背中ごしに見た空の色をずっと覚えているだろうか。

ふいに手を後ろにまわして、手すりを握っている息子の手にかぶせていく。柔らかくて小さな手。いつか父よりも大きな手になるのだろうか。

長い登り坂に差し掛かると、自転車はキーコキーコと苦しそうにあえぐ。すっかり暗くなって、行き交う車の種類も判別できなくなる。

秋の夕方は魂が身体から離脱する時間帯だ。僕の魂もいったん身体から離れて、自転車の上から、後ろから僕を見つめている。そうしてまた見えてくることもある。