床屋。

昼間の暑さが遠のき、オレンジ色の夕陽に包まれる街を歩いていた。ふと、トリコロールのシマシマが目に入って、反射的に僕は床屋に入った。

去年10数年ぶりに床屋に行って以来、僕は床屋で髪を切り、頭を洗い、顔そりをしてもらうようになった。それまでは千円カットかごくたまの美容院だったのだが、あの白いクリームで顔そりをされる気持ち良さに再会してからは、街の床屋に入るようにしている。出張先などで思いついたときにふらりと立ち寄ることが多い。

床屋は広くて何人もスタッフがいるところが良い。椅子と洗面台がずらっと並び、スタッフが手持ち無沙汰に他愛もない話をしているくらいが良い。この床屋も当たりだった。ゆるく間延びした空気が流れる店内で、えらく丁寧にハサミが入っていく。メガネを外しているのでどんな髪型に仕上がっているかはわからない。もっといえば、どんな髪型に仕上がっているかなどどうでもよい。

うだうだと悩んでいたことが、加減の良い温水で流されて、クリームとともに剥ぎ取られていく。散髪の真の目的はそこにある。

店を出ると、もう夏の夜の趣きに変わっていた。ラッシュとは逆方向の電車に乗って、家に帰ろう。